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The Book of Henry ヘンリーのノート

アメリカ映画 (2017)

ジェイデン・リーバハー(Jaeden Lieberher)とジェイコブ・トレンブレイ(Jacob Tremblay)が、ナオミ・ワッツの長男と次男を演じる、特異な犯罪ドラマ。その前例のない、奇抜ともいえるアイディアが、多くのreviewで不評を買う結果となった。そして、その咎は、監督と脚本の不出来に帰されている。映画は、大きく分けて前半(~33分)、中盤(~50分)、後半(~107分)に分かれる。前半の主役はジェイデンが扮するヘンリー。「隣の家の男の義娘への暴行」に対し、ヘンリーが正義感から行動を起こす。中盤の主役もヘンリーで、内容は、悪性脳腫瘍により、志半ばで急死する。映画の真の主役が、映画の半ばにも達しない段階でいなくなるという異例な展開だ。後半は、ヘンリーが残したノート(プラス、ボイス・レコード)に残されたプランに従い、母が「暴行犯」をスナイパーのように射殺しようとするクライム・サスペンス。この後半部分は、各シーンが細切れで脈絡に欠けていることと、母が、ヘンリーの残した録音の指示に従って動く様が、あまりにご都合主義的でリアル感が全くない点に、reviewの批判が集中している。ヘンリーは、11歳の天才児という設定だが、映画の前半ではそれが愉快でも、後半に入ると、天才を超えて神がかりの域に達し、それが、「catastrophically awful film(壊滅的なまでの失敗作)」という酷評にもつながる。もう一つの指摘は、主役の3人以外は、医師役のLee Paceを除くすべての出演者がTV俳優という点。TVを悪く言うわけではないが、TVしか出られない俳優と、トップクラスの映画俳優とでは明らかに演技の多様性と深み、それに発するオーラに差がある。隣の家の男と義娘、母の勤める飲食店のオーナーと友人のウエイトレス、校長の5人の演技には説得力がまるでない(最悪は、登場場面の格段に多い義娘とウエイトレス)。ヘンリーの一家だけの場面は観ていても安心できるが、こうした脇役が絡む場面になると、お粗末な演技に 主たる相手となるナオミ・ワッツが損をしてしまう。キャスティングを間違えると、こんなにもひどくなるという典型例だ。

11歳のヘンリーは天才児。経済にも詳しく株や投機で貧しい家計を助けようと必死だ。彼には、8歳になる弟ピーターがいる。2人はとても仲がいい。一家3人で一番ダメなのが離婚してシングルマザーとなった母。別れた夫の立派な家に住んでいるが、生活は厳しくウエイトレスをして子供たちを養っている。そこまでは偉いのだが、帰宅するとTVゲーム三昧で、ヘンリーの投資に全く興味を示さず、任せきりで何もしない。それでも、2つのことがあるまでは、一家は幸せで平穏そのものだった。2つのこととは、ともにヘンリーに関わりがある。1つは、隣に住む女の子。どうやら、一緒に暮らしている義父から暴行を受けているらしい。はっきりとした証拠はないので、ヘンリーが校長先生に直訴してもなかなか取り上げてもらえない。ヘンリーは正義感から彼女を救おうと計画を練り始める。ヘンリーは小学生なのに、少女の義父を狙撃して亡き者にしようとする過激な計画だ。もう1つは、ヘンリーを頭痛が襲うようになったこと。ストレスのせいだと思って誰にも内緒にしている。しかし、計画が完成する前に、ヘンリーは病に倒れる。脳にできた悪性腫瘍だ。緊急手術の結果、治る見込みがなく、死が目前であることを知ったヘンリーは、後を母に託そうと考える。そして、これまで使っていた赤いノート〔映画のタイトルになっている/英語の “book” には「ノート」という意味もある。しかし、日本語で「ブック」と書いてしまうと「本」の意味になってしまう。ネット上では、日本未公開にもかかわらず「ザ・ブック・オブ・ヘンリー」と書かれているのを見るが、内容を理解せず付けた無責任な邦題だ〕に殺害計画を書き込み、具体的な指示をボイスレコーダーに吹き込む。そして、入院から1ヶ月も経たずに急逝。ヘンリーは、生前、自分が死んだら、赤いノートを必ず母に渡すようピーターに頼んでいた。ピーターはそれを実行し、母は、恐ろしい計画の存在を知る。最初は、自分なりに他の方法で助けようとするが、ことごとく失敗し、ヘンリーのプランに沿って行動を開始する。殺人の実行日は、年に一度学校で開催されるタレント・ショーの夜。そのショーにはピーターもマジシャンとして登場する。ショーが始まってからピーターの登壇までの45分間の間に、殺人を犯して戻ってくればアリバイが成立する。母は、少女の義父を森におびき出し、狙撃寸前までいくが、偶然が重なり、自分のしていることの愚かさを悟って中止する。一方、タレント・ショーでは、ピーターが意外なマジックを成功させていた…

ジェイデン・リーバハーの演技は、New York TimesやVarietyやEmpireなど一流の映画評で高く評価されている。特にVarietyでは、「ジェイデン・リーバハーは映画でベストの部分。ヘンリーとして、彼は決して笑わないが、sly(こっそり)、quizzical(まごつきながら)、engaged(没頭する)時の、野生動物の警戒心のような表情は、若き日のレオナルド・ディカプリオを思い起こさせる」と書かれ、具体的な映画名として『ボーイズ・ライフ』があげてある。この映画は、ディカプリオが17歳の時に撮影されたもので、彼はこの映画の演技で一躍有名になりスターダムを駆け上がっていった。だから、この形容は、撮影時13歳のジェイデンには名誉なことだ。私も、個人的には、『ヴィンセントが教えてくれたこと』以来の名演だと思う。ただし、残念なことに、この映画が、ジェイデンの声変わり前の最後の作品となった。ジェイデンは、もともと異様に声が低いので、声変わりしてもあまり差はないが〔ハリー・ポッターの第2作目はショックだった〕、最新作の『IT/イット “それ”が見えたら、終わり』では、明らかに声変わりしている。2018年公開の映画『The True Adventures of Wolfboy』や『Low Tide』でも主役を務めるので順調な伸びが期待される。

ジェイコブ・トレンブレイは、ジェイデンとは3歳違いなので出演時10歳なのだが、『ルーム』の時のように、年齢よりずっと幼く見える。この映画では、前半は完全に脇役で出番も少ないが、後半になると存在感を増してくる。ただ、役柄上メガネをかけることが多いので魅力が削がれる。ジェイコブの次回作は、原作が日本でも『Wonderワンダー』として出版された『Wonder』で、2017年11月に全米公開されるが(オスカーの可能性も)、顔に障害のある少年の役なので、特殊メイクで素顔は全く見えない〔残念ながら、このサイトでは紹介しない〕。だから、ジェイコブについては、DVDの発売は未定だが、『ルーム』に次ぐ当たり役として、『Burn Your Maps』(2016)に期待を寄せている。


あらすじ

映画は、ヘンリーとピーターがスクールバスに乗るところから始まる。ヘンリーの独白。「ほとんどのみんなは まともだ」。先に乗ったピーターが通路を奥に進むと、突然、虐めっ子が突き飛ばす。「ほとんどと言ったのは、中には嫌な奴もいるから」。それを見た他の子たちが起こしてくれる。「みんな まともだ。救いの手を出してくれる」。この「救いの手」が、この映画の主題だ。場面は、ヘンリーの教室に移り、「私のレガシー」と書かれた黒板の前で、トミーが発表している。「僕は、最高にクールなドッジボールの選手になって名を残したい。ドッジボールでオリンピックの金メダルが欲しい…」。それを、うんざりした顔でヘンリーが聞いている(1枚目の写真)。発表が終わると、先生は、もっと的確な話が聞けるのではと期待してヘンリーを指名する。ヘンリーの発表は、いろいろなreviewだけでなく、twitterでも引用されるほど有名なものだ。「僕たちは、名を成すことについて語りがちだけど、それは、実存的危機〔existential crisis〕を回避する甘い蜜のようなものじゃないかな。トミー、君は、いずれ、ドッジボールがオリンピックの種目にないことを悟らされる。だけど、僕らのレガシーは、履歴書にどんなことが書けるかではないし、銀行口座の残高に幾つコンマが付くかでもない。幸いにして誰と生涯を共にし、何をその人に残せるかなんだ〔It's who we're lucky enough to have in our lives, and what we can leave them with〕。一つだけ確かなことは、僕たちが今ここにいること。だから、生きている間は、ベストを尽くさないと。それが、僕の考えるレガシーさ」(2枚目の写真)。因みに「実存的危機」とは、簡単に言えば、人生の意味を見失うこと。小学生の使える言葉ではない。ヘンリーは11歳なのだが、IQの極めて高い天才児なのだ。生徒たちが内容を理解したかどうかは別として、ヘンリーは生徒たちから高い信望を得ている。そして、先生からも。「なぜ あなたを英才学校に行かせられないのか、もう一度教えてもらえる?」。「僕の心理社会的な発育には、普通の学校で、仲間と触れ合う必要があるからです」。「そうよね。分かったわ」。その時のヘンリーの表情が面白い(3枚目の写真)。学校がひけると、母の迎えの車が来るまでヘンリーは公衆電話で馴染みのブローカーのロブと話している(4枚目の写真)〔私はFXに疎いので正しく訳せない〕。実は、ヘンリーは、小さな店でウエイトレスとして働く母を仕事から解放しようと、株の運用で着々と資産を増やしているのだ。
  
  
  
  

郊外の閑静な住宅地。ウエイトレスのシングルマザーとは思えない立派な家だ〔離婚まで夫婦で住んでいた家で、夫が出て行ったのだろう/母が働いている食堂のオーナーも、住所を知って、「いい所に住んでるな。てっきりアパートか何かだと思ってた」と母に話す〕。ヘンリーとピーターは、なぜか1つの部屋に同居している〔空き部屋もあるのに〕。ピーターが、自分のベッドに寄りかかりウォーキートーキーで兄と話している。「なぜ手伝えないの? 1つ壊しただけだよ」。「電気火災になったろ」。「お兄ちゃんのように、何か作ってみたいんだ」。「分かった、来い」。ツリーハウスにいる、ヘンリーは、複雑な自動装置を作り始めている。第一段階として、ボールを転がして、カップに入れた反動で金槌を倒すところまでは成功(1枚目の写真、青の矢印のように白い球が落ちると、反動で金槌が黄色の方向に倒れる)。一方、ピーターは、お許しが出たので、一目散に走ってツリーハウスに到着する(2枚目の写真)〔ツリーハウスは、少しでも木の上に載っているようなものを指すことが多いが、この家はどんな木の上にも載っていない。しかし、DVDのメイキングで何度もツリーハウスと呼ばれているので、子供の手作りなら何でもツリーハウスなのだろう〕。また、このハウスは家から100メートル以上離れた森の中にある。そのスタンディグが後で重要な意味を持つ。ピーターが着くと、ヘンリーは 「何が作りたいんだ?」と訊く。「飛ぶトランポリン」。「もっと小さなものにしろ」。「ロケット・ブーツ」。「無理だな」。ヘンリーは先ほどの装置を微調整している(3枚目の写真)。小さな弟には何も期待できないので、「お前は、フェイルセイフ機構の一部なるんだ。ちょっとした計算ミスで装置全体が動かなくなる」と言って、手に小さなカップケーキを持たせて装置の下に立たせる。白い球を転がすと、カップに落ちて(4枚目の写真、黄色の矢印)、金槌(青い矢印)が倒れ、ホイップクリームのスプレー缶(右上の矢印)を叩き、カップケーキにクリームが出る仕組みだ。うまくいって、ピーターが大喜びでそれを食べる。ここから分かることは、ヘンリーが面倒見のいい兄で、ピーターもよく懐いているという兄弟仲の良さだろう。
  
  
  
  

夜になって、母は、大型の液晶TV前のソフェに座り込み、機関銃での戦闘ゲームに熱中している(1枚目の写真、矢印はゲームパッド)。その奥の階段の前の机では、ヘンリーがノートパソコンを開き、周囲に書類を広げて財務状況をチェックしている。「ねえ、ママ、Funtime Coveでの147.50ドルは何に使ったの?」。「ピーターの誕生日用のバウンシーキャッスル」〔城などをかたどった四角い部屋状のバルーン遊具〕。ゲームの手は休めず、機関銃を撃ち続ける。「今日の郵便で、資産報告 届かなかった?」。「渡すの忘れてた」。「ちゃんと読んで、理解しておかないと」(2枚目の写真)。これでは、どちらが親で、どちらが子供か分からない。母の熱中ぶりに、「そんなに身を乗り出しても効果はないよ」との、あきらめの言葉にも、「あるわよ。ほら見て」と敵を殲滅する。
  
  

寝室で、母はピーターに自作の絵本を話して聞かせている。ヘンリーも横に座って聞いている(1枚目の写真)。青い毛皮のリスが、虹色のコートを羽織ることで仲間に受け入れられる話だ。母は、読み終わると、ヘンリーに、感想を求める。「えーと… よくできてるよ」。褒め言葉とは言えないので、母は、「こら、自分で 何か書いてみなさいよ」とヘンリーの頭を絵本でポンと叩く。ヘンリーの机の上を見た母は、そこに、「若手研究者賞」のメダルを見つける。「いつもらったの?」。「大したことない」。それを聞いたピーターは、「ボクだったら、興奮しちゃう。放りっぱなしになんかしない」と言う。ヘンリー:「お前にやるよ」(2枚目の写真)。ピーターは、さらに、「あしたの夜、映画に連れてって」と母にねだるが、「無理よ。夜の当番なの」と断られる。それを聞いたヘンリーは、「ママ、言ったよね、もう働かなくていいって」と口を出す(3枚目の写真)〔ヘンリーの投資が順調なため〕。ピーター:「働かなくていいって、どういうこと?」。母:「気にしないで」。ヘンリー:「必要ないって言ったんだ。家にいて、もっと絵本を書けばいいじゃない」。しかし、なぜか母はこの提案を無視する〔劣悪な環境でのウエイトレスの仕事になぜこだわるのか理解できない〕
  
  
  

朝食時に、ヘンリーが、ノートパソコンのキーを指し、「ねえ、ママ、ここをダブルクリックすると、銀行の取引明細がダウンロードできるんだ」と教える。母は、覚える気など全くない。「あなたが利口じゃないって、誰が言った?」と誤魔化す。それに真面目に答えたのはピーター。「誰も」。彼は、ひたすら兄を尊敬している。ヘンリー:「じゃあ、やって見せてよ」。「子供じゃないのよ、ヘンリー」。「やってみせて」。母がキーをクリックする。「先月分を削除したね」(1枚目の写真)。母は、ヘンリーに向かって中指を立てる。それを見たヘンリー、冷静に「やり方 違ってるよ」と指摘〔親指が人差し指の上に乗っている〕。ピーターは、わざわざ席を立って親指の位置を直す。その時、外から、「スーザン」と母の名を呼ぶ声が聞こえる(2枚目の写真)。ピーター:「最悪、グレンだ」。母:「シックルマンさんでしょ」。3人が外に出て行くと、隣の家の主人が、レーキを手にして、「芝生の管理をちゃんとしてもらえないかな? 落ち葉が、ウチの敷地に飛んできてる。掃除が大変だ」と文句をつける(3枚目の写真、左手に持っているのがレーキ)。日本なら、「ご近所トラブル」に発展しかねない。しかも、この男は、町の警察署長ときている。嫌な性格だ。ヘンリーの母が、いい加減なせいもあるのだが… この時も、「分かった、やってみる」と言いつつ、結局何もしない。男は、ヘンリーを見ると、「これが森の中にあった」と、ウォーキートーキーを渡す。「警官ごっこか?」。その時、義理の娘も顔を見せる。母は、彼女が大のお気に入り。別れた後で、2人の子供に向かって、「将来の義理の娘ね」と言う。
  
  
  

学校の休憩時間に、ヘンリーが女性(先生?)とチェッカーをしていると、ピーターが、「助けて! モリスにメダル取られちゃった!」と言いながら飛び込んでくる。「急いでよ!」。ヘンリーが出て行こうと立ち上がると、対戦相手が「ちょっと」と呼び止める。ヘンリーは、黒の駒を3回飛び越えさせて、相手の駒を総取りし、「ありがとう、ドット」と言うと、ピーターと教室を出て行く。ヘンリーは、隣の娘が寂しそうにベンチに座っているのを見て、「クリスティーナ、大丈夫?」と声をかけるが、その間にピーターはメダルを取り返しに行き、モリスにやられてしまう。ピーターの悲鳴を聞き、ヘンリーは慌てて助太刀に向かう(1枚目の写真)。そして、ピーターを救い出すと、「何するんだ、この野郎、構うなと言っただろ」と相手に噛み付く(2枚目の写真)。相手は、映画の冒頭に出てきた虐めっ子だ。負けてはいない。ヘンリーに向かって、「このチビ、ドアホだ。お前は頭がいいかもしれんが、こいつは何だ? ただのクズじゃないか」とわめく(3枚目の写真)。ピーターは、助けてもらったのに、「どこにいたんだよ!」と兄を責める。確かに、クリスティーナに寄り道したのは不味かった。お陰で、ピーターに与えた「若手研究者賞」のメダルは割れてしまう。
  
  
  

家に帰ってからも、ピーターの機嫌は治らない。ヘンリーが、「千回も ごめんって言ったじゃないか」と頼んでも、ベッドの上に座ってヘンリーをじっと見たまま何も言わない(1・2枚目の写真)。「二度と、モリスに近寄らせないから。約束する」。それでも表情は変わらない。ヘンリーは、「笑わせてみせる」と言うと、部屋の奥の物置に入って行き、扇風機、吸盤、箒などを取り出すと(3枚目の写真)、「侍」と書かれた革のヘルメットをかぶり、検眼用のメガネのようなものをはめる。扇風機を回して紙吹雪を飛ばし、そちらに向かって2つの吸盤を使いながら、床を這って行く(4枚目の写真)。猛吹雪に逆らいながら無理矢理前に進むヘンリー、といったパフォーマンスだ。うっかり吸盤から手を離し、吹雪で後ろに飛ばされたように演技する。それを見て、ピーターもすっかり機嫌を直す。
  
  
  
  

その時、母が、ウエイトレス仲間のシーラを連れて帰宅する。母は、ピーターを「私のマンチキン」〔オズの魔法使いに出てくる小人⇒愛称〕と言って抱き上げてキスするが、ヘンリーの格好には、「やめてよ」。続けて入って来たシーラは、抱きついたピーターに、「今日はピーター」と言うが、ヘンリーには「ハンク」の一言〔彼女は、ハンクとしか呼ばない〕。「僕、ヘンリーなんだけど。簡単な名前なんだから、髪の毛の中に しまっておけない?」(1枚目の写真)〔ヘンリーは、いつもシーラのモデルのような髪の毛を皮肉る〕。それに対し、「いい眼鏡ね。あんたの 出来損ないの頭によく似合ってる」。母は、「そこで休戦してちょうだい。今日は、さんざんだったんだから、シーラと2人でゆっくりしたいの」と言う。ヘンリーがピーターに、「また、2人で飲むんだ」とあきらめたように言うと、ピーターは「分かってる」と答える。その後の、母とシーラの会話で面白いのは、シーラに、よく1人で子育てまでできるわねと訊かれ、「何言ってるの、ヘンリーがいるわ。あの子以上にデキる男性軍なんていやしない」という場面。このシーンの3分ほど後にある、もう1つのシーラとの掛け合いも、順序は入れ替わるが、ここで紹介しておく。それは、学校の帰りに、3人でシーラの家に寄る場面。シーラが酔っ払ってガーデンチェアで寝ている。ピーターが真っ先に見つけ、ヘンリーも顔を近づけて見る(2枚目の写真)。シーラは、起きがけのひどい顔で、母に「子供たち 連れて来たのね」と言った後で、ヘンリーを見上げて「今日は、ハンク」と声をかける。ヘンリーは、「いつになく晴れやかだね」と皮肉る。ここで、ヘンリーとシーラの関係を割愛しなかったのは、中盤のシーンとの対比のため。
  
  

話は元に戻って、シーラが来た日の真夜中、ヘンリーは突然目が覚める。頭が痛い。思わず頭に手を伸ばし(1枚目の写真)、顔を覆う。しかし、ベッド脇の薬瓶からすぐにカプセルを取り出し、置いてあったコップの水で飲むので、頭痛が常態化していることが分かる。そして、そのままベッドから起き上がると、窓に近づいていく。ヘンリーは、以前から、クリスティーナと義父の「関係」に気付き、時折チェックしていた〔映画では、初めて「見た」ような印象を受けるが、実際には前に何度も見ていたことが、後で判明する〕。クリスティーナは、真っ暗な中でスノーボールを見ている。ヘンリーが1階に目を移すと、義父はソファに座って酒を飲んでいる。もう1度2階。スノーボールの中に入っている踊り子の影が壁に写る。すると、突然、光が乱れ、1階にいたはずの義父の姿がない。ヘンリーの悲しそうな顔(2枚目の写真)。翌朝、ヘンリーがなかなか起きてこないので、母が大声で呼ぶ。ヘンリーは、如何にも頭が痛そうな顔で階段を下りてくる。「大丈夫?」。「いいよ、どうして?」。「その顔、どうしたの?」。「別に。ただの頭痛だよ」(3枚目の写真)。
  
  
  

翌日の教室。先生は、生徒の1人の母親から誕生祝いに差し入れられたドーナツを、全員に配っている。しかし、ヘンリーの左後方に座っているクリスティーナは元気がない(1枚目の写真、右側がクリスティーナ)。ヘンリーは、何度もクリスティーナを心配そうに見る(2枚目の写真)。先生は、「来月のタレント・ショーで、何をやるか考え始めなさい」と話す〔タレント・ショーは、映画の最後を締める重要な場面。ということは、これから起こる目まぐるしい展開は、わずか1ヶ月の間に起きることになる〕。クリスティーナのことが心配で、矢も盾もたまらなくなったヘンリーは、黙って席を立つと、先生の制止を振り切って教室を出て行く。向かった先は校長室。ヘンリーはノックもせずに入って行くと、「ねえ、ジャニス、こんなこと いつまで放っておくのさ。他にどんな証拠が要るって?」と、強い調子で校長に食って掛かる。「ワイルダー視学官のことを言ってるのね? でも、そちらに話を持っていくことはできないの」。「じゃ、痣や疲労や成績低下は? 調査してとは頼んでない。疑いを報告して欲しいんだ。それが、教育者としての倫理的責任でしょ」(3枚目の写真)。「予備調査では、何も出てこなかったのよ」。「じゃ、2回目の調査をやれば?」。「事態はもっとややこしいの。シックルマンさんは、警察署長で、この町でも立派な人だから、根拠のない主張は、困った事態を招きかねない」。ヘンリーは、「じゃあ、これ、何なのさ?」と言って、『What to should know about Child Abuse(児童虐待について知っておくべきこと)』のパンフレットを手にかざす。「私は、あなたが生まれる前からシックルマンさんを知っているの」。この言葉にかっとなったヘンリー。「僕を見下すな」と怒鳴る。校長は怒った。「決定的な証拠なしに 公開審査を行うことなどできません」ときっぱり言う。ヘンリーは、パンフレットをちりぢりに破り捨てると、「そうか。じゃあ自分でやる」と捨て台詞を残して部屋を出て行く。天才児の早口言葉と、校長の噛んで含めるような言い方がぶつかる見せ場だ。
  
  
  

この後、3人は、シーラの家に寄り〔先に紹介〕、スーパーに行く。母がショッピングカートを押し、ピーターが入れた「不適切」な嗜好品を、ヘンリーが取り出して元に戻す。1枚目の写真は、ヘンリーが3回戻したうちの2回目。矢印はクラシック・コカコーラの67.6ozボトル。ヘンリーが、レジに買ったものを置いていると、店内で、男性が女性を乱暴に扱っている。それを見て、何とかしようとしたヘンリーを、母は、「私たちには関係ないの。事を悪くさせるだけ」と止める(2枚目の写真)。帰宅したヘンリーは、部屋に行くと、赤いノートを取り出し、「サラトガ郡相談電話」〔ニューヨーク州の州都オールバニーの北〕に電話をかける。ヘンリーは、インテイク〔相談者から事情を聞く〕ケースワーカーを出してくれるよう頼む。そして、「児童虐待を報告したいんです」と話す。「誰かに傷付けられたの?」。「僕じゃありません」。「あなた、幾つ?」。「11です」。「あなたに会えるかしら?」。「いいですか、電話番号は言えません。だから、匿名報告の窓口に電話したんです」(3枚目の写真、黄色の矢印は「赤いノート」、青の矢印が携帯)。その時、下から母の呼ぶ声が聞こえる。そこで、ヘンリーは、隣の住所と、クリスティーナの義父の名前だけ言って電話を切った。
  
  
  

その夜。母は、自分のベッドに寝ながら、隣に横になったヘンリーに、「真面目すぎるのはやめて、ちょっとは怠けて欲しいの。悪い癖をつけたら? 賭け事とか飲酒とか銀行強盗とか」。母の冗談に、思わずヘンリーもほころぶ(1枚目の写真)。しかし、ヘンリーはすぐに一段と真面目になる。「ママ、スーパーで、女性を助けようとしなかったね」。「私たちには関係ないって言ったのよ」。「誰かが誰かを傷つけてる時、関係ないじゃ済まされないと思うんだ」。「言いたいことは分かるけど、仕方ないの」。「だけど、ママ、みんなが仕方ないと思ったら、自制できないああいう連中に誰も注意しなくなるよ」(2枚目の写真)。「じゃあ、どうすべきだったの? 暴力沙汰は嫌いなの」。「暴力は、最悪のものじゃない」。「何が最悪なの?」。「無関心だよ〔Apathy〕」(3枚目の写真)。非常に重い言葉だ。ここに、ヘンリーの考え方と その後の行動のすべてが凝縮されている。悪をこらしめるためなら暴力も許されるという発想だ。何となく、スーパーヒーローの立ち位置に似ている。
  
  
  

ヘンリーが部屋にいると、車がくる音が聞こえる。母の部屋に行って窓から覗くと(1枚目の写真)、隣の家のドアベルを男性が押している。2人は握手を交し、何事かを話している。義父は家に入って行くと、クリスティーナに何かを命じた後で、一緒に玄関で待つ男の所に連れて行く。男は、義父のいる前でクリスティーナに話しかけ、クリスティーナが中に戻ると、男と義父は握手の後、抱擁して分かれる。これは、すべてヘンリーが窓越しに見た映像としてのみ示される。ヘンリーがすぐに赤いノートをめくると、先日校長室で破いた『What to should know about Child Abuse』のパンフレットを取り出して裏面を見る。そこには、サラトガ郡社会福祉課長として、今しがた隣家を訪れた男の顔写真が載っていた(2枚目の写真)。ヘンリーの電話は全く効を奏しなかった。福祉課長と警察署長は旧知の仲なので、真面目に取り合おうとしなかったのだ。だから、疑惑を持たれている人物の目の前で、被害者に真偽を尋ねるような馬鹿げたことを平気でする。ヘンリーは、役所は全員つるんでいるので、自らやるしかないと決断する。そこで、自転車に乗り、今後の計画を練るため、まず近くにある水深の深い場所~ダム湖に向かう(3枚目の写真、矢印はヘンリー)。なお、写真に映っているのは、滅多に目にすることないニュー・クロトン(New Croton)ダム。ニューヨーク市の水道用のダムで、1905年にできた高さ91メートルのダム。ダムが映ってないと思われるかもしれないが、写真は、専門用語で余水吐と呼ばれる部分(ダムは、この右に長さ667メートルも延々と続く)。水道用のダムなので、発電用と異なりゲートで放水はせず、余った水は垂れ流す。その流し方が世界一美しいことで知られている。私も、その「美しさ」を見るために行ったことがある。3枚目の写真よりは鮮明なので、4枚目にその時の写真を付けた。橋はまだ工事中だったので、枠組だけが見える。しかし、左側の滝のような部分を含め、水流はとても美しい。
  
  
  
  

ヘンリーは、ダムの上で、ボイスレコーダーを手にして、「400フィート南に行くと、北側に深い池がある」と吹き込む。そして、投棄場所をノートに絵で示す。次に、ツリーハウスに行ったヘンリーは、窓から小さな望遠鏡で覗きながら、ウォーキートーキーで指示をしながらピーターに立ち位置を変えさせる。「ここ?」。「もっと先だ」(1枚目の写真)。「これ以上行くと、落ちちゃうよ」。ピーターは、渓流の境にまで来ていた。「そこでいい。じゃあ、指を何本か上げて」。ピーターが3本上げて見せる(2枚目の写真、矢印は3本の指)。「3本だ」。「合ってる」。ヘンリーが次に自転車で向かったのが古本屋。うず高く積まれた本の山の中から、2冊持って現れる(3枚目の写真)。2冊の本は、『Practical Crime Scene Processing and Investigation』と『Techniques of Crime Scene Investigation』。何れも、犯罪現場捜査官の座右の銘のような本で、刑事裁判で足をすくわれないようにするためには、どのように犯行現場での調査を行うべきか、法医学的な面を含め、科学捜査班の技術面について記した専門書だ。
  
  
  

ヘンリーが最後に向かったのは、銃砲店。さっそく、インスタントカメラで写真を撮る(1枚目の写真)。1人では中に入れないので、客が出てくるのを待って、ドアが閉まる前に中に潜り込む。そして、銃の陰に隠れて他の客と店主のやり取りを盗み聴きする。「これを捜してたんだ。1分で何発だ?」。「1200」。ラスベガス銃乱射事件では最大でも10秒で90発だった〔1分に換算して540発〕。その2倍強だが、ネットで確認すると、アメリカ市民が合法的に所持できる銃のうち、AR15の改造銃では1分で1200発とあったので、これは嘘ではない。恐ろしい現実だ。「幾らだ?」。「8」(2枚目の写真)〔わずか9万円〕。「ライセンスが要るんだろ?」。「ああ、連邦のだ」。「今日は、家に置いてきた」。「じゃあ、ダメだね。だが、そんな規則、俺が作ったわけじゃないぜ」。「ドメニックに、勧められたと言ったら?」。「1100ドルだ」〔12万円強〕。ヘンリーは、紹介者の名前を赤いノートにメモする。その時、急激な痛みが襲い、ヘンリーは頭を押さえ込む(3枚目の写真)。
  
  
  

その日の夜。母は、2人にお休みのキスをした後、ヘンリーのベッドの奥の棚にあった青いギターに目をやり、ハミングを始める。頭痛がひどいので、「やめてよ」と言うが、母は、「歌ってよ」と言ったピーターの前に座って歌い始める。『二度と、手離さない』という歌だ(1枚目の写真)。母を見ているヘンリーの姿が、ゆっくりとクローズアップされていくが、その寂しそうな顔が印象的だ(2枚目の写真)。
  
  

そして、その夜、事態は急変する。事の始まりは、真夜中に響きわたるピーターのくり返される絶叫。「ママ!!」。母が駆けつけると、ヘンリーがベッドから床に落ち、痙攣で震えている(1枚目の写真)。起きてきたピーターも真っ青だ(2枚目の写真)。母は、「911に電話して!」と叫ぶ。次は、病院の廊下を運ばれていくヘンリー(3枚目の写真)。母は心配して、後ろから「ヘンリー」と何度も呼びかけるが、もちろん応答はない。ここから、「前半」から「中盤」へと移行する。カメラは病院から一歩も出ず、ひたすらヘンリーを追う。
  
  
  

ERに連れていかれたヘンリー。ようやく意識が戻り、母が頭を撫でている。そこに、1人の医師が声をかけてくる。「カーペンターさん、私はデイヴィッド・ダニエルス、神経外科医です」。そして、ヘンリーに、「何が起きてるのか 診てみような」と親しげに話しかける。母への質問:「発作を ご覧になりましたか?」。「はい」。「どんな状態でした」。「全身が震えてガタガタしていました」。「頭痛はありましたか?」。「いいえ、大したことは…」と言いかけると、ヘンリーが頷く。医師が、「痛い? いつから?」。「3・4ヶ月」。その時、脳のCT画像が届けられる。母:「なぜ、何も言わなかったの?」(1枚目の写真)。医師:「キャシー、この子を上に連れていくぞ」。それを聞いた母は、「どこに連れて行くんです?」と尋ねる。「手術の必要があります。息子さんには腫瘍があり、腫脹しています。最重要の器官にも接しています。お辛いでしょうが、同意の手続きをお願いします」。ヘンリーの痙攣が再発する。母はサインし、ヘンリーはそのまま手術室に連れていかれる。それを見て、ピーターは母にすがりつく(2枚目の写真)。待合室での長い夜が始まった。ピーターはすぐに寝てしまい、母だけが眠れない夜をじっと待っている。そして、遂に手術室のドアが開き、医師が現れる。さっそく会いに行った母。会話は聞こえないが、医師の説明を受けた母は、悲しみに打ちひしがれて医師の胸に顔をうずめる(3枚目の写真)。
  
  
  

ヘンリーの病室で、母はヘンリーに寄り添って眠り、ピーターは、イスにもたれて寝ている(1枚目の写真)。ヘンリーは、「ママ?」と声をかける。目を覚ました母は、「ちゃんと ここにいるからね」と安心させるように優しく声をかける。ヘンリー:「問題なかった?」(2枚目の写真)。しかし、母は何も答えず、ヘンリーの手にキスしただけだった。そして、愛しむように、再びヘンリーにぴったりと寄り添う。食事が運ばれてくると、直後にノックがあり、ダニエルス医師が入ってくる。そして、ヘンリーに、「ご帰還おめでとう」と笑顔で言った後に、「君は、ピーターだね」と弟に声をかける(3枚目の写真)。「ヘンリーと君のママだけで、少し話したいんだ。いいかい?」。ピーターは、医師と一緒に入って来た看護婦に連れられて出て行った。
  
  
  

医師が説明する。「ヘンリー、君の頭には何かができてたんだ。私達が、腫瘍と呼ぶものだ。いいものじゃない。だから、それを取り除こうとした。脳の他の部分を傷付けずにね。厄介な状況だった。私達は、一部を取り出すことができた」。医師はヘンリーが天才児だとは知らないので、11歳の子供に話すように説明している。我慢できなくなったヘンリーは、「言っちゃってよ」と遮る。「何だって?」。「急激な発症、緊急手術、あなたの顔の表情から見て、これはきっと、高悪性度の上衣腫か神経膠芽腫だ。なぜ、気づかなかったのかな? あの頭痛と目のかすみ… ストレスのせいだと思ってた」〔ヘンリーは、これまで縁がなかったはずなのに、どうして医学的知識があるのだろう? 天才だから知能は高いが、知識は 関連の専門書を読まなければ得られない〕。ここまで、独り言のように言うと、医師を見て、「かなり大きい?」と訊く。そこまで びっくりして聞いていた医師は、突然訊かれて、しばらく考え、「ああ」と答える。「広範囲?」。「そうだな」。「最重要の器官にも浸潤してた?」。「切除しようとしたんだが、残念ながら…」。そこまで言って溜息をつく。ヘンリー:「分かったよ」。死を悟った寂しい表情だ(1枚目の写真)。ヘンリー:「僕のMRIは?」。医師は、持っていたタブレット端末で画像を見せる(2枚目の写真)。「放射線治療は?」。医師は僅かに首を振る。「申し訳ない」。ヘンリーは、「1人になりたい。お願い」と言って、タブレットを返す。母は、慰めようとするが、「ママ、1人になりたんだ」と頼む(3枚目の写真)。
  
  
  

次のシーンでは、ヘンリーは難しい顔をして、たくさんの専門書を読んでいる(1枚目の写真)。学校では、先生が、「みなさん、ヘンリーはしばらく入院します。重症です。だから、全員で『早く良くなって』カードを送りましょうね」と言いつつ、紙を配る。トミーが、「大丈夫なんでしょ?」と質問する。先生は言葉をにごす。「大丈夫だよね。だって、ヘンリーだもん。そうでなきゃ」。返答に困った先生は、「良く分からないの」と答える。それを聞いたクリスティーナは、「We miss you」を、「I miss you」に変える。“We” の場合は、「私たち寂しいわ」だけの意味だが、“I” に変えると、「会いたい、恋しい」の意味も含まれる。一方のヘンリー、今度は、赤いノートに、絵で細かい指示を書き込んでいる。そこに、シーラが現れ、「今日は、ハンク」と声をかける。ヘンリーも、「やあ、ファッション・モデル」と憎まれ口を叩く。「何してるの?」。「ノートに書いてる」。「ずば抜けてると思ってるのよね」。「早熟って言えよ」。「ハンク、なんで、こんなこと続けるの?」。「ヘンリーだ」。「いいこと、あたしたちが…」。「分かってる。反動形成なのさ」。「それ何?」。「僕たちの関係、対極だろ。僕らのお互いに対する振る舞いは、ホントに思ってることの裏返しなんだ。僕は、きれいだと思ってるから、あんたをワザと侮辱する。子供っぽいよね」(2枚目の写真)「だけど、僕はまだ子供なんだ」。その言葉を聞いてジンときたシーラは、ヘンリーの口に接吻する(3枚目の写真)。ヘンリーにとっては、生まれて初めてのキスだろう。シーラは、頬に触りながら「元気でね、ハンク」と言うと、悲しそうに去って行った。
  
  
  

ヘンリーとピーターが、トランプで遊んでいる。背後には、母がいて、ずっとヘンリーを見つめている(1枚目の写真)。ヘンリーは、一瞬 母の顔を見ると、ピーターに、「カフェテリアに美味いアイスクリームがあるんだ。持ってきてくれないか?」と頼む(2枚目の写真)。母は、すぐにお金を渡す。ピーターがいなくなると、母は、「退院したらどうするか考えてたの」と言い始めるが、ヘンリーはそれを遮り、「ママ、財務書類を取ってきて欲しいんだ」と頼む。「そんなこと心配しないで」。「僕のキャビネットの2番目のファイル用引き出しに入ってる」。「今じゃなくても」。「それに、年金の証書類も必要なんだ」。「来週話しましょ」。「来週には、もうここにいないかも」(3枚目の写真)。悲しい現実を突きつけられた母は、言葉が詰まり、「水を飲んでくる」と言って席を立った。
  
  
  

ピーターがアイスクリームを買って戻って来る。ピーターを買いにやらせたのは、その間に母を部屋から出して、2人だけで話し合うためだ。ヘンリーは、真剣な顔で、「話がある。とても重要なことだ」と口を切る(1枚目の写真)。しかし、次の言葉がうまく続かない。「After…」。「僕が死んだら」と言おうとしたのだが、2度言いかけるが、どうしても言えない(2枚目の写真)。ピーターは、兄が何を言おうとしているのかを察し、すすり泣き始める。「僕の赤いノートをママに読ませることが、すごく重要なんだ。お前は読むな。ママだけだ」。「自分でやってよ」。「ピーター、お前なら絶対できる。僕が信頼してるのはお前だけだ」。ピーターは頷く。「ママを大事にしろよ」。再び頷く(3枚目の写真)。「どこに行っちゃうの?」。「分からない」。ピーターは涙がとまらなくなる。「どこに行っても うまくいくよ。みんな、お兄ちゃんと友だちになりたがるから」。ヘンリーは、「おいで」とポーターを横に来させる。兄に抱かれても泣き続けるピーター(4枚目の写真)。「心配するな。すべてうまくいく」。お涙頂戴的ではあるが、ヘンリーの覚悟と、ピーターの兄思いが良く現れている。それに、当代のトップ子役2人が名演を見せるシーンでもある。
  
  
  
  

母は、家まで資料を取りに行く。そして、病室では、ヘンリーがノートパソコンを見ながら、母に教えている。「もしLiffcomが200を超えたら売るんだ」(1枚目の写真)「エネルギー関連は下がると思ってるから、このままでいい」。しかし、母は、心ここにあらずで、何も聞いていない。「聞いてる?」。「何を?」。「新しい車、買わないと」。「今の車で十分よ」。「長期債券も買ってある。無税だよ」。「話したくないって言ったでしょ」。「書類をちゃんと読んで、時々ロブと相談しないと。ママ、これ とても大事なことなんだ!」。「全然 大事じゃないわ」。「テクノロジー株にも注意が必要だ」。「こんな話、したくないの、分かった? こんなこと、どうでもいいの」。ヘンリーは自分の死後の母の生活が心配、母はヘンリーのことが気が狂うほど心配。両者の変なせめぎ合いだ。母への思いが無視されて悲観するヘンリー(2枚目の写真)。母は、自分が今までヘンリーに頼りきっていたことを思い出し、言い過ぎたことを謝る。「ママは、すごく怖いの。あなたなしで、どうすればいいのか分からない。母親として何をすべきかも」。「ママは、ちゃんと母親らしくやってきた」。母は、ヘンリーの枕に頭をつけると、「あなたは、ママの最良の部分よ、ヘンリー」と言って頬にキスをする(3枚目の写真)。
  
  
  

ピーターが頭を抱えて廊下に座っている(1枚目の写真)。病室の中はブラインドが下りて暗い。母は寝ている。ヘンリーは、急に苦しくなり、無理やりベッドから這い出すと、腕に付いた電極を外す。そして、窓まで這って行くと、何とかブラインドを開けようとする。電極が外れた警告音で起きた母が、「何してるの?」と慌てて近寄る(2枚目の写真)。看護婦も急いで飛んでくる。ヘンリーは、もう目が見えないのか、「ママ、どこにいるの?」ともがき苦しむ(3枚目の写真)。最期の言葉は、「空が見たい」だった(4枚目の写真)。母は、涙に咽んで息子を抱き締める。
  
  
  
  

ヘンリーが死んで放心状態だった2人は、次第に日常生活に戻る。そんなある日、ピーターが起きてくると、母がキッチンで何かを作っている。母は、「いいこと思いついたの」と話しかける。ピーターは、「疑わしい」という顔だ(1枚目の写真)。案の定、「初めてなんだけど、面白いわよ。1週間、お菓子ばかり食べるの。他には何もなし。朝も昼も夜も」と言った後、唐突に、「ちくしょう〔Fuck it〕」と付け加える。ピーターはすかさず、「僕の前で悪態つかないで」と叱る。ヘンリーに言われたことを実践しているのだ〔ダメな母の面倒をみること〕。だから、次の動作で母がタバコを口にくわえて、ライターで火を点けようとすると、タバコをつまみ取る(2枚目の写真)。母は、いきなり、「いいお天気ね」と言い出す。「これで、全部終わりだなんて信じないわ。でも、いい天気だから。人生は続くのね」。ここまでは独り言。そして、「ごめんなさいね。ママは、今、とっても辛い思いをしてるの。あなたも、誰か親しい人を亡くした時には…」。ピーターは、それを遮り、そんな風に話さないで」と強く言う。「どんな?」。「子供扱い」。「そうね」。しかし、また変になる。「分からない。何をしよう。一体… 分からない。ヘンリーなら、どうしたかな?」。ここで、ピーターがまた釘を刺す。「ヘンリーなら、どうしたかじゃない。ママならどうするかだ。何がしたいの?」(3枚目の写真)。しかし、母の返事は、「分からない」。かなり重症だ。
  
  
  

勤務先の食堂に現れた母は、オーナーから、「こんなに早く戻らなくてよかったのに」と言われる。そして、「君の息子が、病院からこれを送って来た」と言って、1通の手紙を見せる(1枚目の写真)。「彼の話では、銀行口座に68万ドル〔7600万円〕あるそうだ。株式や債券もそれ以上にある。休みを取った方がいいと書いてあるぞ。俺もそう思う。彼は賢い子だった。これは『お願い』じゃない。悪いな」。つまり、しばらくは もう来るなということだ。一方、学校では、ピーターがランチ・ボックスを開けると、中は、見事にお菓子ばかりだった(2枚目の写真)。「誰か、果物と交換しない?」。その声で、お菓子はあっという間になくなった(3枚目の写真)。
  
  
  

自分の部屋に戻ったピーター。今は、ヘンリーのベッドを使っている。その時、母が「ただいま」と言って帰ってくる。その時、紙箱につっこんであった赤いノートに ピーターの目がとまる(1枚目の写真)。ピーターはベッドを降りると、棚まで歩いていって、ノートを取り出す(2枚目の写真)。そして、目を通し始める(3枚目の写真)〔ヘンリーから、「お前は読むな」と強く言われていたのに、兄に忠実だったピーターが なぜ読むのだろう?〕
  
  
  

読んではいけないノートを見てしまったピーターは、慌てて母のところに駆けて行く。「ヘンリーは、ボクらに グレンを殺して欲しいんだ」〔グレンは、隣の義父〕。この当たりから脚本の綻びが目立ち始める。まず、ヘンリーの計画は非常に複雑なのに、ヘンリーより3歳年下で、天才でもないピーターに計画の全容が簡単につかめたとは信じられない。現に、その後、ソファに2人が並んで座り、母が赤いノートを母が読み上げるシーンでは(1枚目の写真)、「留意点。誰もが5段階すべてをやり抜ける訳ではなく、順番通りに行う必要もない。これらの計画は葬儀の間に課題の準備をすることが極めて重要である」と非常に難解かつ抽象的に書かれていて、しかも、殺人は何も示唆していない。母も、「グレンを殺す計画とは思えない」と言う。ところが、その直後、母は、「むかつくわね、あいつが、そんなことを…」と言い出し、ピーターが「どんなこと? 分かんないよ」と訊くと、「クリスティーナの いいパパじゃないってこと」と言い繕う。ここでは、義父グレンがクリスティーナに虐待をしていると、母は信じている。そこまで読んだのなら、殺人計画も読んだはずだ〔すごく混乱して、筋が通らない〕。母は、「児童保護サービスに電話しないと〔I'm gonna call Child Protective Services〕」と言って携帯を取り出すが、ピーターがノートの中に書かれた文章を指差す。そこには、「児童保護サービスへの電話は、なぜ適切な選択肢ではないのか〔Why calling Child Protective Services is not a plausible option〕」と書かれている。ピーターが、母の行動を見て、ノートの中の特定の文章をたちどころに探し出し、しかも、それが母の言葉とほぼ同じだなんてことは、あまりにご都合主義だ〔reviewでもそう指摘されている〕。「ちゃんとやってくれる人が、誰かいるに違いないわ」。「ヘンリーが全部試してるよ」。「どこかに目こぼしがあるわ」。「ヘンリーがそんなことする?」。まあ、ここまではいいとして、その先が一番ひどい。母が「クリスティーナを助ける方法があるはずよ〔There has to be another way to help Christina〕」と言うと、ピーターがページをパラパラとめくり(2枚目の写真)、「なぜ、助ける方法がないのか?」と大きく書かれたページを見せる(3枚目の写真)。これでは、ピーターがノートを隅から隅まで覚えていることになるし、そもそも、母の言葉が、前回同様、千里眼のようにノートに書かれている。「これ以上話すのはやめましょ」。「ボクたちやらないと。ヘンリーの遺志だよ」(4枚目の写真)。「私達は、警察署長を殺したりしないの」。ここで、また殺人の話が出てくる。先に「グレンを殺す計画とは思えない」と言ったのと、どう整合性を取るのか? 映画の後半に対しては各reviewの批判が集中しているが、この部分も確かにひどい。後半の根源に関わる部分なので、脚本家は、最低限の蓋然性だけは確保すべきだった。
  
  
  
  

母は、穏便に電話で解決しようと、どこか不明の場所に電話をしている(1枚目の写真、矢印は携帯)。聞こえるのは母の声だけ。「コミュニティの正直な構成員を誹謗するな、ですって? 『有力な』と言いたいんじゃない?」。ここで、電話はガシャリと切られる。警察署の前まで車で行った母は、署長と部下のあまりの仲の良さに、溜息をついて引き返す。母が、次に電話したのは、サラトガ郡以外の相談施設。「管轄外です」とあっさり断られる(2枚目の写真、矢印は携帯)。そして、真夜中。母も、かつてヘンリーが見たように、義父によるクリスティーナの暴行を目撃する(3枚目の写真)。
  
  
  

やむなく、母は、赤いノートに頼ることにする(1枚目の写真)。めくっていくと、「CHECK THE SAFE(金庫を調べろ)」とだけ書かれたページが目に入った(2枚目の写真)。母は、地下室に下りていって、小型金庫を開ける。一番上に載っていたのは、ボイスレコーダーだった。再生ボタンを押すと、聞こえてきたのはヘンリーの声。「やあ、ママ。僕だよ」「びっくりしないで、ママ」「これを聞いてるってことは、僕はもういないんだ」「僕が自分でやるつもりだったけど、もう、その選択肢はなくなった」(3枚目の写真、矢印はボイスレコーダー)。「こっそり抜け出したこと、怒らないでね」。
  
  
  

ここから、ヘンリーの生前の姿が映る。「でも、すべてが順調に行くよう、確認する必要があったんだ」(1枚目の写真、ヘンリーの足、場所不明)「ママは僕に頼ってきたけど、今度は僕がママに頼る番だ。助けて欲しい」(2枚目の写真、ヘンリーは病院の包帯の上から「侍」のヘルメットをかぶっている、矢印はボイスレコーダー)「必要なものはすべて用意してある」「放置はできないから、正さないといけない」。ここで、再び地下室に戻る。「それから、ママ…」。ここで、母が「ええ」と間合いを入れるのは、あまりに出来すぎ。「僕は、いつもママと一緒にいるからね」。「分かった」。こうして、母は、ヘンリーの声に誘導される形で、殺人計画にのめり込んでいく。
  
  

母が、ボイスレコーダーの音声をイヤホンで聞きながら町を歩いている。「僕たち、一歩一歩、一緒にやっていくんだ。1つでもミスしたら、すべてがダメになる」「まず、ATMから現金を引き出さないと。平静を装って」「上にある四角のガラスの裏にカメラがあるから、見ないこと。それでいい太字は、ヘンリーが生きているようで、あまりに不自然な部分〕。母は、ATMの前に立つ。「500ドル引き出して」。「それで足りるの?」。「もちろん足りないよ、だから最寄のATMに行かないと。引き出し上限があるんだ」(1枚目の写真)「次のATMはLongbowとSwanにある」「出たら右に」。母は歩道を左に曲がる。「反対の右だよ」。母が戻って来る。「あのね、ママが不安なことは分かってる」。「ホントに? こんなの 何もかもクレージよ、ヘンリー」。「どんどん不満をぶつけてよ。ピーターの前じゃなければいい。悪影響があるから」。ここで、画面が変わり、母が車で移動する。「向かい側の緑のごみ箱の後ろに駐車して」。正面に銃砲店が見える。「ここにも来たの? 何てこと。私って、最悪のママね」。「防犯カメラの視界を忘れないで。図に描いておいた」「ママ… やれるよ」。母は、店に入って行き、店主の前に直行。バッグを勢いよくケースの上に置く(2枚目の写真)。そして、何度も練習したように、早口で畳み掛けるように話す。「Nemesis Vanquish 7.62〔ネメシスアームズ社の軽量狙撃銃308/7.62、4495ドル〕が要るの。Litton Ranger Night Vision scope〔リットン社の暗視スコープ、2300ドル〕と、suppressor〔サイレンサー〕にextra 10-round detachable mags〔取り外し可能な10連の弾倉〕を3個付けて」「用立てできる? それとも、他を当たるべき?」。「サイレンサーは、軍用以外違法ですよ」。「ドメニックが何て言うかしら」〔以前、ヘンリーが控えた名前〕。「いいこと、悪いけど、そろそろ行かないと飛行機に乗り遅れるの。さっさと言い値を教えて、私を行かせてちょうだい」。次のシーンでは、母は、銃の入った大型のブリーフケースを持って店から出て、リアハッチに入れる〔専用のブリーフケースは200ドルするので、母が払った金額は少なくとも7000ドルを超える⇒ATMに12回以上行ったことになるが、そんな様子には どう見ても見えない〕。場面は、森の中に移行する。木の幹に、「悪漢の絵を貼った合板」が標的としてつけてある。「合板は、頭蓋骨よりわずかに厚いだけ。破片は粉々になって、ほとんど追跡できない」。母は、切り株の上に狙撃銃を置き、何度も試射する。「ゆっくり確実に引き金を押して」。今度は、見事に命中(3枚目の写真)。「見た?」と自慢げに声を出す。「やったねママ、その調子」。母の独白。「最初は、何をするのか想像つかなかった。でも、今では彼女の目が見える。彼女のいる場所も。きっと、我慢の限界だわ」。「ママ、回りを見て。離れる前に、薬莢を拾うことを忘れないように」。このシーンは、ヘンリーが生きていて、母と話しているような錯覚すら与える〔特に、太字の部分〕。reviewの批判の最も多い部分だ。予め録音されたテープと 母の言葉がかみ合うはずがない。意外性はあるが、あまりにも不自然だ。それに、100万円近い狙撃銃にも違和感が大きい。
  
  
  

母は、隣の家に行き、クリスティーナを明日のタレント・ショーに連れて行くので、書類にサインが必要だと言って、義父に署名させる〔サインが必要なのは事実〕。家に戻った母は、下から光を当て、2枚の書類を重ねて義父のサインを別の書類に偽造する。「後見人の書類には、証人のサインが必要なんだ。だから、僕は、去年、シュワルツさんが亡くなった時の書類を、日付を変えて偽造しておいた〔義父を殺した後、母をクリスティーナの後見人に仕立てるため〕。「それと、新しい車も買っておいたから」。「今の車で十分よ」。「分かってるって。でも、安全だし、逃げる時に人目を引きにくい。ママは車を引き取るだけ。住所はノートに書いてある」。その時、ピーターが現れて、「何してるの?」と訊かれたので、母は作業を中断し、一緒に2階に上がる。ピーターをベッドに寝かせ、「明日の用意はできた?」と尋ねる。「まあね」。「何をやるの?」。「マジック」(1枚目の写真)。「すごいわね。どんな内容?」。「サプライズだよ」。「ぞくぞくするわ」。「うまくいかなかったら?」。「ちゃんと準備したんでしょ?」。「うん。いっぱい」。「なら、心配することないわ」。「これが、ヘンリーだったら、心配なんかいらないのに。完璧だから」。ピーターの顔が悲しげになる。そして、「時々、僕だったらよかったのにと思うんだ」と漏らす(2枚目の写真)〔なかなか言える言葉ではない〕。それを聞いた母は、「なぜそんなこと言うの?」と訊く。「悲しむ人が少ないから」。「いいこと、もし、あなたに何かあったら、ママは、どうしていいか分からない。ヘンリーは、素晴らしい子だった。でも、あなたは特別な子なの。もし、自分の方が大切じゃないと思ってるなら、それは間違い… とんでもない間違いよ」。
  
  

翌朝、すなわち、殺人実行日の朝、母は、義父を射殺する予定地を入念にチェックする。「すべては秒単位で決まっている。一挙手一投足。間違いは許されない」「ママはここにいなかった〔今夜のアリバイの話〕今だって いない。ママは幽霊なんだ」。「あなたと同じ」〔鋭い台詞〕。夕方、タレント・ショーに出かける時間が近づき、母がピーターを呼ぶ。ピーターはマジシャンなので、白と黒の服を着ている(1枚目の写真)。「舞台に上がったら、冷静にね。何があっても慌てない。落ち着いて集中するの」。そして、場面は学校へ。ピーターは、母が、クリスティーナと話している隙に、壁に貼り出してあった顔の絵に、黒マジックで髭を描いている。気がついた母はすぐに止める。「ピーター、何するの? なぜこんなことしたの?」。「ヘンリーだったら、面白がったよ」(2枚目の写真)「ヘンリーは11歳よ」。「天才だった」。「でも、パパじゃないわ」。そして、「ちゃんと見てるわよ」と言って送り出す。出場者の部屋に入ろうとするピーターを呼び止め、両方の親指を上げる〔「ガンバレ、絶対うまくいく」という意味〕。ピーターも同じように両方の親指を上げて応える(3枚目の写真)。
  
  
  

母は、ショーが始まるまで会場にいてアリバイを作ると、そっと抜け出す。「さあ、ママ、いよいよだ。3つ数えるよ。1、2、3」。母は、予め45分にセットされたタイマーを押す(1枚目の写真)。これから殺人を犯し、また会場に戻って来て、ピーターの演技に間に合うまで後45分〔ピーターの出番が45分後だと、どうしてヘンリーに分かったかは謎⇒入院の時点では、誰が何をするかも分かっていなかった(ピーターがマジックをすることに決めたのはヘンリーの死後)。だから、時間など分かるハズがない〕。母は、新しい車で夜の町をすっ飛ばす。「焦らない。何があっても、焦らない」。「焦ってないわよ」。母は、家に着くと、2階の寝室に置いてあったブリーフケースをつかむと、ツリーハウスに向かって走る。狙撃銃を組み立て、窓に置いて狙いを定める(2枚目の写真)。後は、その場所まで義父を誘き出せばいい。狙撃地点の横の木には、予めウォーキートーキーが縛り付けてある。母は、自分のウォーキートーキーに向かって口笛を吹く。森の中から聞こえてくる大きな口笛に気付いた義父は、怪しいとにらみ、拳銃を構えて森に入って行く。時折聞こえる口笛を頼りに渓流の近くまで来ると、ウォーキートーキーを発見する。その様子は、母の暗視スコープにもはっきりと映っている(3枚目の写真)。
  
  
  

彼が、正確に予定地点に立つまで待つこと」「雑念をすべて払って」。その瞬間、義父がツリーハウスを見る。暗視スコープの狭い画面では、自分が見られているような気がする。驚いた母は思わず足を滑らせてしまう。足の動いた先にはスイッチがあり、ヘンリーの白い球がころがり始める。前と違って、それは複雑な動作を引き起こし(一例が、1枚目の写真、金属の帆船が矢印のように斜路を滑ってきてドミノ倒しに移行)、母の気を逸らせる。一連の動作の最後に、ヘンリーとピーターの組写真が天井から降りてくる(2枚目の写真、矢印)。母は、写真の子供たちに見入る。その時、「ママ、撃って」「やって、今だ!」とテープのヘンリーが叫ぶ。しかし、母は、「嫌よ。あなたはただの子供よ」と拒否する(3枚目の写真)。母は、自分のしていることを悟り、ヘンリーのかけた「催眠術」から覚めたのだ。母は、予め決められていたように、ダムまで走って行くと、狙撃銃を解体して湖に捨て、車に乗り込む〔残り時間、4分29秒〕。そして、全速で学校に戻る。
  
  
  

学校に向かう母は、途中でサイレンを鳴らして走るパトカーとすれ違う。実は、このパトカーは義父の家に向かうもので、校長の告発を受け噂が広まったので、警察が身柄の拘束に向かったのだ〔ヘンリーが病気で倒れる直前の校長は冷淡そのものだった。1ヶ月も経たないのに、いつ、なぜ、告発することにしたのだろう?〕。義父は、拳銃で自殺する。一方、会場では、ピーターのマジックが始まっていた。舞台の上に大きな箱を押して現れたピーターは、「僕のマジックでは、お兄ちゃんを蘇らせたいと思います」(1枚目の写真)「終わった時には、みなさんと、ここにいるでしょう」と前口上を述べる。そして、蓋を重そうに開ける。観客は息を呑んで見守る。ピーターが箱を蹴ると、中から紙吹雪が吹き上がり、観客席の上に雪のように降り注ぐ(2枚目の写真)。一斉に拍手が起きる〔このアイディアは、映画の最初の頃、ヘンリーがピーターの怒りを宥めるため、紙吹雪を使ったことに由来すると思われる。だから、ピーターにとっては、紙吹雪=ヘンリーなのだろうが、そのことを知らない観客がどうして拍手喝采したのだろう? 映画の最後の「感動的」な場面などで、余計にひっかかる〕。ようやく間に合った母が、少し遅れて紙吹雪の中から現れる。ピーターは舞台を下りて母に駆け寄り抱き締められる(3枚目の写真)〔母は、ピーターの前口上は聞いていないので、紙吹雪の意味は知らない。抱き締めたのは、観客の喝采を浴びるほどピーターが成功したからか?〕。ショーが終わり、外に出ると、母は、校長から、たった今、義父が自殺したと知らされる。それから、数日後、母が、クリスティーナの永久親権を獲得する。その後の母の映像には、ヘンリーの独白が流れる。「良い物語は、どんな人間になりたいかを思い起こさせてくれる。だから、こんなにいっぱいあるのだろう。善と悪の物語、心の勝利の物語、生と死の物語…」。母が赤いノートを暖炉の火に入れて燃やす(4枚目の写真)。「この物語は、あなたと僕と、僕の弟と、隣の女の子の話。でも、もう僕だけの物語じゃない」。母は、ボイスレコーダーを取り出し、再生ボタンを押すと、「みんなのだ」と最後のヘンリーの声が聞こえる。母は、テープを止め、マイクロカセットを取り出して、火にくべる。この最後のヘンリーの独白はいったい何なのだろう? 死んだヘンリーの声? 言っている内容も支離滅裂だ。もう一度引用するが「catastrophically awful film(壊滅的なまでの失敗作)」と酷評される所以である。素晴らしい演技を見せたジェイデンが可哀想だ。
  
  
  
  

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